公共空間の中の個人席 / 8ninriki.jp
Review


2015.07.27
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公共空間の中の個人席


writer
小林 哲治

建築:島根県文化芸術センター グラントワ / 島根県益田市

設計:内藤廣 / 内藤廣建築設計事務所

益田市に住んでいたなら、グラントワへ通うだろう。例えば気分転換がしたい時、考え事をしたい時、親しい人と向き合いたい時に、この建築は私によりそった空気を作り出してくれる。

 

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グラントワとは島根県益田市にある劇場と美術館の複合施設で、尊敬する建築家・内藤廣が設計している。その形は用途ごとに分けられた切妻屋根の建築群から成り、それらが中庭広場をぐるっと囲むことで複合施設にありがちな巨大化を回避し、街並みへ溶け込んでいた。

 

 

 

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この日は、計画中のクライアントと勉強をかねての島根旅行。大学時代からの友人がクライアントになるのは変な感じで、ついでに他の仲間も巻き込んでワイワイと進めている。建築は専門外の彼女達にとって、観光名所でもない施設の見学は半ば強引だと感じていたかもしれない。しかし到着してガラス越しに中庭広場が見えた時、すぅっと歩いてゆき各々が思い思いの場所を見つけてはくつろいでいるようだった。

いや…、正確に言えば、午後の日差しに光る水盤と靴をぬいで遊ぶ子供達を見た瞬間、私は友達をほったらかして建築を歩き回っていた…ので、たぶんそんな感じだった気がする…。

 

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グラントワ最大の魅力は中庭広場にある。ここは施設を行きかう人々の距離を調整する役割を担っており、広場にありがちな求心力とは異なった意味合いで使われている。というのも真ん中に大きな水盤(水たまり)があるため、人が集まろうにも集まることができない。その代わりに、人々は水たまりを介して、ほぼ対角線上にお互いを認識することになる。

 

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この距離感は公共空間として格別な気持ち良さだ。浅くて広い、歩けば渡れないこともない水たまりの存在は、実際の距離よりも少しだけ遠く感じ、絶妙なパーソナルスペースを確保してくれる。現に軒先で休むお年寄り、談笑する女性達、勉強する高校生、水たまりで遊ぶ子供達と、いろんな人が集まっていることからも実感できよう。

後日の打合せでは、グラントワの体感レポートを発表しあったが、皆に共通する感想として、やはりあの中庭の心地よさがあった。そこで、最後にレポートの中から一枚だけ紹介したい。建築マニアでない人のさりげない感性からも、あのグラントワの空気が伝わってくれれば。

 

 

「グラントワを見学して」

見学して約1ヶ月が過ぎた。正直言って細部はもう覚えていない。残っているのは、中庭のベンチに座って過ごした時の感覚と、建物全体から感じた印象。

第一印象は、初めて見るデザインの建物、初めて見る仕様の外壁タイル、初めて見るタイプの中庭…と、初めて尽くしの空間に足を踏み入れたような感覚を覚えた。でもやがてジワジワとやってくる「こういうの知っている感」。

ベンチで連れとポツポツ話しながら、しばしぼおーっと過ごした。天気が良かったおかげで風も気持ち良く、愛らしい鳥の姿や鳴き声も加わり、子供の頃祖父の家の縁側で外の風景を眺めた感覚、高校時代に弓道場から的場を見つめた感覚、水場のまわりに人々がたわむれる公園で過ごした感覚、見覚え、感じ覚えのある空間に、懐かしいような心地良さを感じた。

 

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しかし、施設内ホールで行われていたイベントが終わるとたくさんの人々が中庭に流れ出てきて、私の中の静寂はやぶれ一気ににぎやかになる。心地良かった静かさとのどかさは崩されて、中庭には喫煙コーナーがあることにも気付かされた。たばこの煙が決め手となって、そそくさといったんは中庭を退散する。いまどき喫煙OK?こんなに心地良さを追求したであろう空間なのに?と違和感を覚えた。

そして1ヶ月が過ぎた今、滞在中に経験した「初めて出会う感覚→ずっと前から知っている懐かしい感覚→囲われた安心のもとで自然を感じる解放感→心地良さを崩される違和感」の流れをたどると、知っていたのに見学した時には思い出せなかったグラントワの印象にたどりついた。

あれは街の公会堂だ。昭和の時代からおなじみの、時々都会からやってくる歌手のコンサートや人気テレビ番組の公開収録、地元の交流イベントの受け皿にもなる、そこに住む人々の日常と非日常を結ぶ場所。私個人は感じてしまった違和感にも合点がいく、自身に宿るマジョリティの傲慢さを少々内省しながら。喫煙上等。今でも喫煙者に寛大な場所といえば、だいたいは昭和感を色濃く残す喫茶店や居酒屋たちだ。

そうか、ここはスタバじゃないんだ。

「グラントワ」フランス語の小洒落た響きや斬新なデザインに気をとられて、今時の場所かと思いきや、昔ながらの社交場らしい遺伝子がきっちりと残してある。素人にはわからない大技小技を駆使しながら、ここを親しんでくれるであろう人々に想いをめぐらせながら、グラントワはつくられたのであろう。





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