吉阪隆正 / みんなでつくる方法 / 8ninriki.jp
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2016.09.15
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吉阪隆正 / みんなでつくる方法


writer
小林 哲治

2002年8月17日(土)小雨
私はインド北西部の街ダラムサラのゲストハスで休んでいた。あいにくの雨模様で集落実測を早々に諦め、ロビーに会った日本語の本を読み漁っていた。
そこでまさかの『吉阪隆正集14』を見つける。恥ずかしながら「14」はまだ読んだことがなく、それもそのはずでタイトルは「山岳・雪氷・建築」。ヒマラヤ山脈の裾野にあたるこの街にはふさわしい内容だが、山男でない私は読み飛ばしていたのだった。

まさかこんなところで吉阪に会えるなんて。

これまでもそうだったけど、吉阪先生、私はいつもあなたの言葉に助けられて生きてきました。きっとこれからもです。
と、嬉々として手に取り、雨音を忘れて読みふけっていた。その中に今でも忘れない文章が、解説・後記で松崎義徳が書いた「タカと自邸」にある。

 

―聖路加国際病院のベッドで、「松崎君、お願いがある、自宅の雨漏りを止めてくれ」と言われた。先生の意見では、屋上にもう一つ屋根を掛けるということだった。現状はどうなっているのかと中に入ってギョッとした。
屋上タラップの口から漏った雨水は、彼の二枚の古いフンドシを伝わって、下のバケツに落ちるようになっている。その様は、薄暗い中で彼の分身が首を吊っているように見え、鬼気迫るものを感じた。数年前に造った木造床はブカブカだった。隣の水洗便所の排水管から漏れていた汚水が床下に入り込んでいたためだった。ゴキブリは捕えきれない位に出て来たそうである。奥さんはこの家に住みたくないとおっしゃる。紺屋の白袴と片付けることは出来ないと思う。それは彼の生き様そのままの廃墟だった―     (吉阪隆正全集14より抜粋) 

 

涙と笑いが同時に上がってきた。見たことのないはずの百人町の自邸の中で雫をたらしているフンドシが、脳内で鮮明に映った。建築のつくり方がわからなくて旅をしていた私にとって、ここで吉阪に再会できたことは、どれだけ心の励みになったことだろうか。
以降、「表現は生き方だ」と考えていた私にとって、吉阪のフンドシは一種の偶像のように心の中に在って、変な言い回しだが、それを目指すように線を引いている。

 

 

 

 

 

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あれから14年が経った。

いろいろあったけれどもなんとか建築をつづけることができていて、あの時よりは建築を触れている実感がある。

そして、昨年末から国立近現代建築資料館で行われていた『みなでつくる方法―吉阪隆正+U研究室の建築』では、はじめて正式(おおげさに聞こえるかもしれないが)に彼に会えるような気がして、スケジュールをやりくりしつつ、なんとか見に行くことが叶った。この日は建築家・齊藤祐子による展示解説があり、その時間をねらって訪れたのだが、このことが新しい展開をもたらしてくれる。

 

 

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会場に入ると、あの粘土の模型や吉阪の名言、どうしても見たかった原図が広がっている。吉阪の展示会なのだからウォーウォーっと見ても良いだろうと思いながら、静かな会場の空気になじむよう、合わせて(いたつもり)だまって鑑賞していた。

 

 

 

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青焼きに焼かれた言葉たちは、心が折れそうな時に何度も読んだものが多かった。

例えばこの「大宇宙の中の一点たる地球のその表面のある一点に存在する私。そこで何年かを過ごして―」は、大学時代の自分の背中を押してくれた言葉。
吉阪に「ここから建築をはじめていいんだ」と言われた気がして、人間(じんかん)を調べよう、そこからわかったことで建築をつくろうと決心することができた。

 

 

 

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発見的方法は、街を歩く時も、はじめて敷地に行く時も、新しい街に着いた時も、いつだって自分の根幹として大切にしている。

 

 

 

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不連続統一体に関しては、正直まだつかめていない。感覚的にはわかるのだが、それは人間の意志で掌握できるものなのだろうか。できるとしたら、一時代の手で有形化できるのだろうか。

 

 

 

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そして待望の原図たちは、やはりというか情念のこもったもので、寸法や仕上、納まりという技術的な情報にとどまらず、そこで何が起こるのか、何を目指すのかまでが伝わってくる。

 

 

 

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私は、「建築は背景であってほしい」と考えているので、この図面は見事に人へ焦点が集まった表現をとっており、60年も前にU研究室はその視点から建築をつくっていたことに改めて感動した。

 

 

 

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反転して、浦邸の図面ではタイル一枚一枚の割付寸法が断面詳細として、各開口部との取合せまできっちり計算されている。つまり、彼らの描く図面は、技術性と人間性のどちらの幅も大きく押さえていたということ。

 

 

 

 

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しばらくすると、齊藤さんたちがやって来て展示解説がはじまった。

齊藤さんの言葉はわかりやすく、はじめから一つ一つ丁寧に解説してくれた。

 

 

 

 

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富山市立呉羽中学校における人の出会い方、挨拶が降ってくる話。

バルコニーが学校生活の中心であって、休み時間に生徒があふれてきて顔を合わせることが多いので、友達ができやすいこと。

建築は人の出会い方が形になる。

 

 

 

 

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当時のU研究室は空調がなくて、夏は庭に水をまいてそこで打合や設計をしていた話。

コンペの時などは、人があふれすぎて自邸のリビングにまで若者たちが寝ていたこと。

 

 

 

 

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玄関に置かれていた「哲学する虎」の話。

「先生が虎を買ってくるらしい」と聞かされて、本物の虎が来るかと思っていたら、やって来たのは木像だったこと。

 

 

 

齊藤さんはU研究室に4年間在籍していたらしく、当事者の語る言葉は本とは異なった想像がわいてくる。それはきっと、その時のことを思い出して紡がれているからだろう、熱くて優しくてやるせない感じのお話だった。個人的にはもっともっといろんなエピソードを伺いたかったが、時間もオーバーしており散会となった。

 

 

にもかかわらず、終了後にしつこく質問していると、優しい齊藤さんは息子の正邦さんを紹介してくださり、なぜか緊張し変な汗をかく…。嬉しすぎて正邦さんと何を話したかよく覚えていないが、しきりに吉阪の弱点を聞いていた記憶がある。

しかし家族の前でも吉阪は吉阪で、あまり弱みを見せなかったらしい。
私たちよりも大変だったのは、U研究室のみなさんだったろうと。いきなりふらっと山へ行ってしまって、連絡がとれなくなることが多々あったそうだ。
確かにそれは困る。

 

そして最後にどうしても吉阪隆正に会いたい私は、正邦さんにお願いしてお墓の場所を教えていただいた。
後日、丁寧な手紙と共に詳しい地図を送ってくださった。

 

よし!これで吉阪に会える。
建築を志したときには、既に彼は鬼籍の人だったが、それは歴史の人なら当たり前のこと。直接会って、いろいろとお話ししよう。

 

 

 

(つづく)

 

 

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追記:現在、国立近現代建築資料館のウェブサイトにて、『みなでつくる方法―吉阪隆正+U研究室の建築』の展覧会図録を閲覧することができます。
・みなでつくる方法―吉阪隆正+U研究室の建築 概要
・みなでつくる方法―吉阪隆正+U研究室の建築 展覧会図録

 

解説1:吉阪隆正(1917-1980)…ル・コルビュジエの日本人三弟の一人。強烈な人間力を持ち、建築家としてだけでなく教育家、思想家、活動家、登山家としても優れた功績を残す。
・吉阪隆正wiki

解説2:U研究室…吉阪隆正主宰の建築設計事務所。生涯のパートナーであった大竹十一を中心に、都市計画から住宅まで多くの設計を行った。
・U研究室wiki

 

 

追伸1:吉阪正邦さま、会っていきなりの私のわがままを受け止めてくださり、本当にありがとうございました。
追伸2:齊藤祐子さま、当日は大変お世話になりました。もっともっとお話が聞きたかったです、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 





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