吉阪隆正 / 多磨霊園墓参 / 8ninriki.jp
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2016.11.9
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吉阪隆正 / 多磨霊園墓参


writer
小林 哲治

その日は、関東地方に台風が連続でやってきた、合間の一日だった。

前回の展覧会でお会いした、息子の正邦さんの手紙を右手に、私は多磨霊園に向かって歩いている。空を見上げると、次の台風を予感させる雲が速い。しかし雨が降る気配はまだなく、これなら吉阪隆正とゆっくり話ができそうだ。

 

実を言うと私はお墓参りが好きで、帰省が叶った時は、実家のお墓はもちろんのこと、亡くなってしまった友達へ会いに行く。お墓で静かに対話をしていると、とても穏やかな気持ちになれる。
だから願わくは、尊敬する歴史上の人物へ会いに行ってくる。修学旅行で京都へ行った時は、こっそり抜け出して坂本竜馬のお墓へ走った。フランスのカップマルタンでは、ル・コルビュジエの墓前で「自分に建築をつくることはできるのか、生きてる間に答えは出るのか。」と弱音を吐いた。

 
 
 

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しばらくすると多磨霊園が見えてきた。木々の向こうには青空が見える。
ここは日本初の公園墓地らしく、都立として規模は最大。脚本家の向田邦子や作家の中島敦、芸術家の岡本太郎や漫画家の長谷川町子など、多くの著名人が眠っている。(ちなみに歴史小説作家、吉川英治のお墓もあって、谷口吉郎が設計している。)

 

 

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多磨霊園では、墓所の場所が「◯区◯種◯側◯番」と表示されている。幸い吉阪さんのお墓は入口から近い所のようで、教えていただいた表示を頼りにてくてくと歩く。
とても蒸し暑い日だったけれど、これから吉阪さんに会えるかと思うと緊張して、暑さからではない変な汗をかいているのがわかる。

道に書かれた表示番号が近づいてくる。どんなお墓なのだろう、何を話そう?いろいろ考えてきたはずなのに、思考がうまくまとまらない。
あ、ここだ…。
しかし、番号はたどり着いたはずなのに、私はすぐに見つけることができなかった。
以前読んだ本には語り合うためのベンチがあると書いてあったけれど… あれ、ここじゃない。ここもちがう。と、お墓を覗きながら歩く。

そして、行き過ぎたかもと思い踵を返すと、存在感のある壁のようなものが反対側に見えた。あれか…?

 

 
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あれだった。

大きな木の下に、吉阪さんはいた。
周りの緑に溶け込んでいて、風景のように吉阪さんはいた。
確かにベンチもある。

吉阪さん、はじめまして。

 

 

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とりあえず、荷物をおろして、水桶を借りに戻った。
そしてお花を取り換えて、粛々と掃除を進めた。
とても静かな時間だった。

 

 

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お線香を供えて、ベンチに座る。
いざ話そうと思うと、言葉が思いつかない。どうしてだろう、いつも学生の前では、ヨシザカヨシザカと言ってるのに、頭の中が空っぽだ。それにしても蒸し暑いなぁとか、コンクリートって砂だなぁとか、どうでもいいことが浮かんでくる。

しばらくはそんな感じだった。

 

 

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どれくらい、そこに居たのだろう。

暑さと恥ずかしさにくじけそうになりながら、自分が考えていることをぽつりぽつりと話した。
これまでのこと、これからのこと、会いたかったこと。突き抜ける力が弱いこと。だから丁寧に時間をかけるしかないこと。
問いつづけること。

 

 

 

そして最後に大好きな詩人、W.B.イエィツの墓碑の言葉を贈った。

 

“Cast a cold eye

 On life, on death

 Horseman, pass by”

 
(冷たい眼を向けよ 生に 死に 馬上の者よ 過ぎ行け)

 

 

 

 

 

 

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帰り道、八王子にある大学セミナー・ハウスへ寄った。
ここは吉阪隆正とU研究室が設計した建築で、逆三角形の本館が大地に突き刺さっている。

 

 

 

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これを見ていると、腹の底から笑いがこみあげてくる。

なんてへんてこだ。
考え抜いて突き抜けると、こんなになっちゃう。真面目に直方体をつくることがばかばかしい。
やっぱり自分にはできない形だ。
でも自分にしかできない形があるはず。
今の時代にしかできない形があるはず。

 

 

 

吉阪さん、いつもはげましてくれてありがとうございます。
弱った時に、また会いにゆきます。

 

(おわり)

 

 

 

 

 

 

 





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